2017年08月09日

鈴木大介「脳が壊れた!」を読んだ。

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そもそもは
漫画家の古泉智浩さんと歌人の枡野浩一さんがやっているポッドキャスト
「本と雑談ラジオ」
で称賛されていたことでこの本を知った。

鈴木大介氏は硬派なルポライター。

「最貧困女子」など有名な方。

その彼が脳梗塞になる直前から回復(完全とまでではないけれど)までの過程を
面白おかしくユーモアを交えて
しっかり自分と向き合う主観と
自分を突き放した客観で克明に記した著書だ。

自分が取材対象。
苦しい作業だっただろう。

脳梗塞になる。
自分の身体がいうことをきかない。
それも言葉や手が使えないだけでなく、視線を固定することもままならない。
意識はある。
だが感情のコントロールもできない。
(喜怒哀楽が不意にあふれることを感情失禁と呼んでいる)

それがどんなに孤独で絶望的で苦痛を伴うものか。
先のことも全く見えない暗中模索の中で悟っていくこと。

彼の筆致は「悲壮感」だけに偏らないように
要所でふざけながら笑いを紡ぎだしている。
そこもグッときてしまう。

…と、この本のびっくりするところは

中盤で明かされるもうひとつの物語だ。

そんなことが!!!
それで彼は自分を追い詰め、脳梗塞に至ったのかと。。。
呆然自失。なんといろんなものを背負っていたのか。

大介氏の悟り。

「人の縁」についての言及、
病に倒れ苦しんでいるときに救われたもの。
また病になったからこそわかった大切なもの。

人は事故で死ぬ以外は病気で死ぬ。
大病に陥ったときの心積り。
そして身近な誰かが大病に陥ったときの心積り。


いろんなことを教えてくれた心に残る本だった。






posted by 彩賀ゆう at 23:18| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月30日

読書雑感15〜17

少し前の読書

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印象にあるのが

●生きてる意味を教えてください田口ランディの対談本
ゲストの御仁を前に田口氏が落ち着いたり、ドライになったり、熱くなったり…
宮台氏もゲストのひとり。

●アンナの土星益田ミリの小説
小説は初めて読んだのだが
ダ・ヴィンチの連載で導入を読み惹かれた。
アンナの天文オタクの兄もいい味だし
友人との間の多感で青い感じが泣ける。

●小心者的幸福論雨宮処凛
雨宮さんが変わってて協調性のない面白い人というのは
何かで見て知っていた。
本もやっぱり面白かった。しかし頭のいい人なんだろうと思う。
posted by 彩賀ゆう at 16:14| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月10日

読書雑感5冊

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●キミは他人(ひと)に鼻毛が出てますよと言えるか
北尾トロ

最初はトロ氏の
「言えるか?言えるはずない。なぜならばヒトというものは…」という見解だと思った。

しかし、違った。

このタイトルだともったいないほどの
向こう見ずな挑戦とドラマが沢山あるのだ。
そしてそこには沸き立つ人間愛を感じずにはいられない。

最初の取り組みは「電車で知らないオヤジに話しかけ飲みに誘う
これがことごとく失敗。気味悪がられ、ホモセクシュアルと間違えられ
ただ話がしたいというトロ氏の目的はなかなか果たされず
殺伐とした世間の乾いた風を感じたりする。

「見知らぬ子供と野球をする」これは幾分成功。
しかしこれも子供の子供らしいおおざっぱさや
冷ややかさも感じる章になっている。

他にも「マズイ蕎麦屋にマズイと言う」「電車マナーが悪い人を叱る」
実際「初対面の男性に鼻毛が出ていますよ」と指摘する場面もある。
「好きだと言えなかった女性に好きだった」と言ってみたり
「クラス一丸でイジメた担任にひとりで会いに行って謝罪」というほろ苦いものもある。

小さな正義感や人間愛…しかし多くの人が躊躇してしまうそのチャレンジ
びっくりするような冒険の数々と、不本意な結果でも後味はさわやかだ。


●呂布
加野厚志

三国志でヒールとされていながらどうにも気になる人、それが呂布だ。

本能の赴くままに生きた猪武者と言われている。

荒くれ者の農民から強さを認められ
丁原の養子になるも李粛の謀(はかりごと)に乗って養父を裏切り
董卓に取り入るが王允、李粛の謀(はかりごと)に乗ってまたもや裏切り
上り詰めたと思われたが、敵多くツメ甘く
最後は曹操と劉備に滅ぼされるという人生だ。

この加野氏の「呂布」では

呂布側から描かれていることもあり

呂布に高順という大親友がいたということが描かれている。
その絆は深く
彼は軍師になり長く呂布のブレインだったようだ。

そして董卓を討つ原因になった貂蝉

横山光輝の三国志ではちょう蝉は呂布を利用しただけで自害したが
この小説では最終的にしっかり相思相愛になっているようで、少しの救いがある。
だがあくまでこの女性の存在は「伝説」だったと言われている。。。

呂布の生き様
卑劣なところもあるが、ただ愚直なのだ。
赤兎馬がほしい、貂蝉がほしい。目の前の利に向かって進む。
そしてなんと言っても恐ろしく強い武将、何をも恐れずに戦い続ける。

やっぱり呂布は人間臭く、雄雄しくセクシーな男だと思う。
彼をヒーローとして成立させているこの本には結構満足した。


●笑う介護
松本ぷりっつ
岡崎杏里


岡崎さんの父が甘党過ぎて
血糖値の上昇による血圧上昇で
血管が切れて50代の若さで認知症に…という悲劇。

そして母も卵巣ガンになり
岡崎さんは多忙の余り
心身ともに弱ってしまう

その母は8か月で奇跡の生還しかし手術も数度に及び、子宮卵巣リンパ節摘出 
リンパ浮腫で浮腫みとり手術2回

この本の「笑う」というのは
笑いながら楽しく介護した…というのとは違う。

病床のお母さんが気丈にも明るく振舞って
いつも笑いを根底に生きていたこと。

病院でも患者の友人らと「笑わせ隊」を結成して皆を笑わせたり

実際笑うことによって白血球が活性化することがわかっている為
笑いの重要さを岡崎さんも説いている。

岡崎さんは、忙しさと心労のストレスを
家で「ごはんまだ」としか言わず、
全く状況を理解できない父にぶつけて
大喧嘩になることも多々あったので

もう限界だ…と心療内科を回ったりもした。
しかしいい先生に出会うまでがまたストレスだったようだ。
 
愛犬でムードメーカーのクロもついには要介護になってしまう。

しかしお母さんの明るさが岡崎家の明るさにつながって
岡崎さんもようやくこれらのできごとを客観的に見ることができて
本にすることが叶った。

いろいろ考えさせられた。


●女の居酒屋
田辺聖子 

田辺さんの行きつけの居酒屋カモカのおっちゃんかなりべらんめえな雰囲気ながら
なかなか鋭かったりする。

ふたりのやりとりで到達した観念に、私も思い当たって頷いた。

特に↓これ。

歳をとるといろんなことを忘れたり、記憶も曖昧になる。
俳優の名前などもすぐ出てこなくなるが
「それは誰それ」と言われたときに「違う」ことだけはハッキリわかる。

それと同じで
歳をとって行くと
世間のいろいろなことに対して何が正解かはすぐに言えないが
「違う」とか「間違っている」ってことは
ハッキリわかるから否定できる。

というものだ。

私も多くの方と仕事上のやりとりがあるが
この頃になってくると
この方のこの要求は間違っているだろう
「これは理不尽過ぎやしないだろうか」
ということはすぐにわかるし、
それを言及することも厭わないくらいになってきた。

加えて、過去の自分の拙い仕事ぶりも感じられ
そのときは迷惑をかけたと思ったりもする。

そうそう「違っている」という思いは政治に対しても
特にハッキリわかるようになった。
いや、今の政治がおかし過ぎるからこれはわかりやすいかもしれないが。

話は逸れたが
田辺のおセイさんの福福しい明るさはいいなと思う。



●いつも君の味方
さだまさし

フォークのアーティスト達は
ほんとにMCが面白い。

さだまさしはNHK「今夜も生でさだまさし」の喋りの面白さもあり
なんとなくこの本を手にとった。

不思議な出会いと温情こもった交流の数々

特に
ミヤモトマンタロウという人物、

八幡浜でさださんにコンサートをしてほしい…!という情熱だけで
身体ひとつで尋ねて来て
「コンサートを開くっていうのは甘くないし先々まで予定が詰まっている」と
事務所に断られるが、その一途なキャラが受け入れられ、
いつしかさだまさし氏と大親友になっていた。

もう何年も経過して彼もそのことを口に出さなくなった頃
さだ氏は八幡浜で彼の念願のコンサートを決行。
そのときの彼の素直な驚愕とこの上ない喜びには本当に感動した。
彼はもうこの世にいないそうだ。。。


そして、あるときさだ氏が
時刻表を開いて「目で見ずに指が刺した場所」に
気ままな旅行したときのことも面白い。

その指が刺した「丹波篠山」に行ったところ
夜になるまで嫌なことばかりが続く。。。
もう懲り懲りだ…と行った居酒屋で
温かい歓待を受け、気持ちがほぐれて行った。
彼はその後数年して
進出鬼没コンサート」と題して丹波篠山へ出向いた。

他にも
さだ氏の馴染みのホテルながら
閉めることになったプラザホテルのしみじみとした最後のパーティーの話もうるっとさせる。

極めつきは
福田幾太郎という
ヘビメタ上がりのギタリストがさだ氏のバンドメンバーに加わり
最初は嫌な感じでメンバー内も緊張状態だったようだが
彼はフォークを誤解していたようで、さだ氏の曲を気に入り
心を入れ替えたようにフォークに親しんで行ったようだ。
さだ氏とも友情を交わした。

この「いつも君の味方」という本のタイトルは
普通に聞くと使い古されたような無難でしかないフレーズに聞こえるが

実はあるとき
「世界中が敵に回っても僕は君の味方だ」
その福田幾太郎がさだ氏に言った…という感動のフレーズだ。
そう思うと俄然輝いて見える。
そこまでの男気を貰えるさだ氏も男が惚れる男なのであろう。

福田氏もバイクで事故を起こし今はこの世にいない…。

あたたかくもせつないエピソードが満載の本なのだった。
そしてそれを綴るさだ氏の筆致にもまた唸る。
posted by 彩賀ゆう at 18:08| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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